痴漢被害を訴える声が上がり、問題になっていた「ブラックボックス展」。主催者のなかのひとよ氏(@Hitoyo_Nakano)が騒動後、初めてメディアの取材に応じ、謝罪するとともに当時の状況を説明した。
BuzzFeed Newsは、当初からなかのひとよ氏(以下、なかの氏)に取材を申し込んでおり、今回、匿名性を担保することを条件に取材に応じた。
なぜ、痴漢被害の訴えに応じ、対策しなかったのか。なかの氏は「痴漢は想定していなかった」「被害の声は嘘だと思っていた」と語った。
以下、ブラックボックス展の開催の経緯から振り返る。
▲なかのひとよ氏。顔、性別を公表せず、匿名で活動。2061年からやってきた未来人を自称する
なかのひとよ
「ブラックボックス展」とは
ブラックボックス展は、5月6日から六本木のギャラリー「ART & SCIENCE gallery lab AXIOM」で開催されたアート展だ。
フォロワー20万人を超えるTwitterアカウント「サザエBOT(@sazae_f)」の運営者として知られる「なかのひとよ(@Hitoyo_Nakano)」の初の個展だった。
内容は、暗闇の部屋に入るだけ。展示物があるわけではなく、暗闇の部屋に入るという体験自体が「アート」だった。
暗闇の中で、来場者同士の顔も見えない。そこで「キスをされた」「胸を揉まれた」など痴漢被害を訴える声が会期中からネット上に多数上がり、批判が広がった。
そもそも、どういう経緯で開催されたのか。
「私が企画案を持ち込み、合意して開催に至った」
待ち合わせをした都内の喫茶店。予定時刻より早くなかの氏は到着していた。アイスコーヒーを口にしつつ、反省した表情で話を始めた。
「今回取材をお受けする前に、一連の騒動につきまして、まずはこの場を借りて再度謝罪を申し上げたく思います。多くの方にご迷惑やご心配をおかけし、大変申し訳ありません」
謝罪の言葉を述べたあと、開催の経緯を話す。
「昨年、アルス・エレクロトニカで賞をいただいたことをきっかけにギャラリーからお声かけいただきました。私が企画案を持ち込み、合意というかたちで開催に至りました」
なかの氏は、ベルリンに拠点を置いている。一時帰国したタイミングで誘いを受けた。企画案へのギャラリー側の反応は「おもしろい」と良かったという。
来場者に渡された「誓約書」が興味を煽った
事前に展示内容は公表されず、来場者は会期終了まで内容を口外することを禁止されていた。誓約書にサインした人のみが入れた。
ただし、「本展覧会を『絶賛する感想』。または『酷評する感想』」の投稿は許可されており、Twitter上には、事実なのか嘘なのかわからないツイートが多数投稿され、人々の興味を煽った。
なかの氏は、こう語る。
「『暗室という環境』『秘密の同意書』には、情報過多の時代だからこそ、外側からの情報を遮断し、内側の心と向き合ってほしいという思いをこめました」
▲展示に並ぶ人々
なかのひとよ
さまざまな感想がTwitter上に投稿される中、痴漢被害を訴えるものがあった。なかの氏は、会期中からそのような声は把握していたという。なぜ中止せず、開催を続けたのか。
痴漢被害は「嘘っぽい」と思っていた
「実際に被害に遭われた方はそのような声はあげないのではないかと。また、直接の問い合わせは会期中、ギャラリーにはありませんでした。私の至らなかった部分です」
「痴漢被害を想定していなかったのも、反省すべき点であります。悪く捉えられるかもしれないが、嘘っぽいというか本当に被害に遭われた方が書いている文章ではないと思ってしまい、開催を続けました」
暗闇で何も見えない空間。内容は秘密で、絶賛か酷評しか許されない。そこから生まれる事実と虚構が入り混じるネットへの書き込み。
その結果、なかの氏自身が痴漢の書き込みは「虚構だ」と判断してしまった。
終了後も痴漢被害を訴える声は続く。それについても「もちろん見ていました。仮にあったとしたならば事件なので、これはTwitter上でどうこうする問題ではないと思いました」と話す。
「疑っているわけではないのですが、被害をあげている方には実際に事情を尋ねていました。しかし、冷やかしだったり、事実がなかなか確認できない状況で心苦しい思いでした」
「真実がわからない間の『想像する行為』は、会場についた後の暗闇の中でも続き、もしかしたら本展について様々な憶測が飛び交う現在も、続いているのかもしれません」
安全面はどうなっていたのか
入場するにあたり、持ち物検査はなかった。極端に大きい荷物は邪魔になるため、一時的に預かったが、バッグ等は持ったまま入場できる。痴漢被害以外にも危険行為は想定できたのはないか。
「痴漢被害以外の危険性については、暗室という空間のため、来場者同士が衝突したり、転倒して怪我をしたりしてはいけないと思い、事前にスタッフと何度もシュミレーションを重ねました。その上で、会場内の段差をなくしたり、壁の角には気泡緩衝材を貼り付けたり、対策を取っていました」
「また、出入り口には常にスタッフを配置し、会場内の巡回や、定期的にカーテンを開けて光を差し込むような取り組みをしていました。大きな物音や声が上がった際には、すぐにカーテンを開けて駆けつけるなどの処置をしていました」
万一の事態に備え、同意書にはあらかじめ『会場内において発生した一切の事故や怪我・病気などの責任を負いかねますことをあらかじめご了承ください。上記内容に同意し、署名を行った方のみご入場可能となります』と掲載し、サインした人だけが入場できた。
口頭でもスタッフから『お気をつけてお入りください』と注意を呼びかけていたという。
▲実際の同意書
なかのひとよ