自らが受けた性暴力やハラスメントについて語り、連帯する「#metoo(私も)」。その動きは、日本とアメリカで大きな違いがある。特に、芸能界に。
Pedro Fequiere for BuzzFeed
アメリカで俳優がハリウッドの大物プロデューサーによるセクハラを告発し、一気に広がった#metoo。日本では、作家・ブロガーのはあちゅうさんが、BuzzFeedに過去に受けたハラスメントを証言したことで拡大した。
朝日新聞によれば、はあちゅうさんの記事公開後、#metooに関するツイートは2ヶ月間で約6万件だったものが、公開後の2日間だけで7万件に増えた。
だが、アメリカでの#metooの拡大と日本でのそれには、大きな違いがある。一つは、声をあげた人たちへの強い逆風によって、再び沈黙する人が増えたこと。
もう一つは、アメリカでは俳優たちが#metooの発信源となり、イベントのたびにセレブたちの意見表明が続くが、日本の芸能界では#metooに関する動きがほとんどないことだ。
#metooに背中を押され、ハラスメント被害を証言したグラビア女優の石川優実さんは、BuzzFeed Newsに、日本の芸能界の沈黙への疑問を語った
グラビア女優が声をあげた理由
提供写真
石川さんは自身のnoteでグラビアDVDでの過度な露出や、性的行為の要求などについて告白した。
高校3年生の秋に地元の名古屋でスカウトされ、約10年間、グラビア女優として活動したという石川さん。noteに当時の状況を詳細に書いた。
毎月オファーや仕事は来るのですが、その度に露出を増やさないともう仕事はないと言われ、水着→下着→Tバック→手ぶら→セミヌードと、半年ほどであっという間に裸みたいな状態になってしまいました。
飲み会の席では、「石川、〇〇さん喜ばせろよ〜」などどみんなの前で言われたり、それがうまくできないと「芸能向いてないよ。」「やる気あるの?」と言われたり。
極め付けは、某テレビ局のプロデューサーとその男性と飲んだ時。当たり前のようにホテルに連れていかれました。3人で。怖くて逃げる勇気はありませんでした。
自身の体験を公開した理由を、石川さんはBuzzFeed Newsに次のように語った。
「はあちゅうさんの告白を読んで、私も声をあげていいんだと背中を押されました。今まで人に相談しても『我慢しろよ』『うまくあしらえ』と言われていて」
「当時は自分をしっかり持っていなく、抵抗できなかった私のせいだと思っていました。恥ずかしくて言いづらいことでした。けれど、声をあげることで自分の中で整理ができました。10年前のことだけれど『やっぱり嫌だったんだな』と」
芸能界とセクハラ被害
取材に話す石川さん
Takumi Harimaya / BuzzFeed
キャスティングに影響力をもつ男性たちが性的な関係を要求する。ハリウッドで告発され、業界を追放されたハーヴィー・ワインスタイン氏と同様のケースだ。
アメリカでは、ワインスタイン氏に対する告発をきっかけに、女優アリッサ・ミラノさんが「性的ハラスメントや暴行を受けた女性全員が『Me too(私も)』と証言したら、重大さをわかってもらえるかもしれない」とツイートした。
レディー・ガガやパトリシア・アークエット、ビョークら著名な歌手や俳優も次々と被害を証言。#metooの波は広がっていった。
沈黙が続く日本の芸能界
では、日本ではどうだったか。
石川さんの証言にある「芸能向いてないよ」「やる気あるの」などの言葉からは、日本においてもハラスメントが蔓延していることがうかがわれる。
だが、はあちゅうさんの記事が公開され、石川さんがグラビア女優時代の体験を告白してからも、次に続く証言はほとんどない。
石川さんは次のように話す。
「声をあげたあと、芸能界の人からはほぼ反応がありませんでした。『なに騒いでるんだろう』くらいに思われているかもしれません」
「枕営業で売れた人がいっぱいいた」
朝の情報番組やワイドショーで、ワインスタイン氏や日本での#metooの動きについて取り上げることもある。
1月10日放送の「バイキング」(フジテレビ系)では、第75回ゴールデン・グローブ賞授賞式で、#metooの運動の一環として、セクハラへの抗議を示す黒いドレスで出席した女優たちを伝えた。
ゴールデン・グローブ賞でのグレタ・ガーウィグ
Frazer Harrison / Getty Images
スタジオの出演者からは「セクハラを訴えた人の中にも枕営業で売れた人がいっぱいいたと思う」「売れたあとにそれ言うのはズルい」という声が出た。
アメリカにおいてはワインスタイン氏が追放され、日本においては被害を訴えた側を批判する声がテレビで語られる。日米の違いが特徴的に出ていた。
「世界はそこだけではないと伝えたい」
沈黙を続ける日本の芸能界。石川さんはこうも話す。
「もちろん声をあげたくない人はあげなくていい。けれど『やっぱり嫌だ』と思っている人には、声をあげてもいいんだよと伝えたいです」
「自分の感覚を大切にしてほしい。嫌なことを嫌だと思い込んでしまって、感覚が麻痺してしまうこともあるかと思います。まずは、自分が嫌なことを嫌だと思えることが大事なのではないでしょうか。自分が悪いなんて思わなくていい」
「逃げるには勇気がいるかもしれない。けれど、そこだけでしか生きていけないことはありません。世界はそこだけではないと伝えたいです」
BuzzFeed Japanはこれまでも、性暴力に関する国内外の記事を多く発信してきました。Twitterのハッシュタグで「#metoo(私も)」と名乗りをあげる当事者の動きに賛同します。性暴力に関する記事を「#metoo」のバッジをつけて発信し、必要な情報を提供し、ともに考え、つながりをサポートします。
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