大手広告代理店・電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24)が、過労により昨年12月、自ら命を絶った。
労災認定を受け、電通の新入社員だった故高橋まつりさんの遺影とともに記者会見する母幸美さん=7日、東京・霞が関の厚生労働省
時事通信
長時間労働が当たり前になっていると言われると社内は、どうなっているのか。BuzzFeed Newsは、現役女性社員に話を聞いた。
訃報を知ったときの社内
▲出勤前、都内のカフェで取材に応じる
Takumi Harimaya / BuzzFeed
高橋さんが、社員寮4階から飛び降りたのは2015年12月25日の金曜日。社内でそのことが公になったのは、週明け28日の月曜日だ。
そのときの、率直な気持ちをこう語る。
「代理店は、クライアントのわがままを聞くのが仕事です。それに耐えられなかったのかな、と考えました」
「『仕事がつらいうえに、私生活もうまくいかず、自ら命を絶ってしまったのでは』というのが、翌週の社内の空気感でした。あくまで個人の問題であり、最終的に会社が責められるものだとは、私自身はまったく思っていませんでした」
パワハラ、セクハラの実態は?
Issei Kato / Reuters
高橋さんは亡くなる前、Twitterに以下のような投稿をしている。
「男性上司から女子力がないと言われる、笑いを取るためのいじりだとしても我慢の限界である」
「私の仕事や名前には価値がないのに、若い女の子だから手伝ってもらえた仕事。聞いてもらえた悩み。許してもらえたミス。程度の差はあれど、見返りを要求されるのは避けて通れないんだと知る」
「髪ボサボサ、目が充血したまま出勤するな」
「君の残業時間は会社にとって無駄」
セクハラ、パワハラがあったとも思われる内容だ。
話を聞いた女性社員自身は、露骨なセクハラは「体験したことがない」と話す。
「高橋さんと、上司の関係性が良くないことは、社内でも知られていました。社員が亡くなったら、同期や仲の良い社員たちがお悔やみを書くのですが、そこに上司も書いていて、本当に気持ちが悪かった」
広告代理店業界。労働時間、世間とのずれ
Issei Kato / Reuters
高橋さんは、月の残業時間が100時間を超えることもあった。この点について聞いた。
「私たちが、世間の常識からずれていることは、認識しています。部署にもよりますが、100時間を超えている人はほかにもいるので、そんなに驚く数字ではありません」
「それより、一連の報道が出たいま、社員同士で話されているのは『他社の方がひどいのでは?』ということです」
100時間を超える残業は、「業界の常識」なのだろうか。
繰り返された悲劇
電通では1991年にも、入社2年目の男性社員が過労自殺している。遺族が起こした損害賠償請求訴訟で、最高裁が「会社は社員の心身の健康に対する注意義務を負う」との判断を示した。
高橋さんの死で、社内に変化はあったのか。
「彼女が亡くなる前から、会社は改善に向かっていました。60時間以上の申請は、年に3回しかできなかったり、産業医の診断を受けないといけなかったり、会社としてやれることは、やっていると思います」
それでも、悲劇は繰り返された。
「これ以上、できることってなんだろうと。今回の件で変わったことは、特にありません」
このインタビューは、抜き打ち調査の前に実現したものだ。10月17日には、社長から社員に対し、労働時間の上限引き下げが通達された。
ただ、この女性社員が証言しているように「60時間以上の申請は年3回」や「産業医の診断」などの対策はすでに取られていた。今回の労働時間カットがどれだけの実効性を持つかは、まだわからない。
最後に、女性社員はこう話した。
「従業員7000人の中で、2000人が高橋さんと似た状況にいると思います」