NTTグループは4月23日、海賊版3サイトに対して、ブロッキングを実施することを発表した。
サイトブロッキングに関する法制度が整備されるまでの短期的な緊急措置とし、準備が整い次第、実施する。
NTTコミュニケーションズのホームページより
NTTコミュニケーションズ / Via ntt.com
経緯を振り返る
社会問題になっている漫画や動画を違法にアップロードする「海賊版サイト」。コンテンツ海外流通促進機構によれば、海賊版サイトによる2017年9月から2018年2月の著作権者側の被害額は計4000億円以上だという。
政府は4月13日の知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議で、海賊版サイトについて、緊急対策を決定。
民間事業者(プロバイダー)が自主的な取り組みとしてサイトへのアクセスを遮断する「サイトブロッキング」できるよう制度を検討していくとした。
発表されたブロッキング対象サイトは、「漫画村」「Anitube」「MioMomoio」の主要海賊版3サイトおよび、これらと同一と見られるサイト。
「自主的な取り組み」としているが、事実上、政府からの要請といえる。
問題点はなにか
4月22日に開催された「著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する緊急提言シンポジウム」。弁護士や有識者、業界関係者らが登壇
Takumi Harimaya / BuzzFeed
ブロッキングについては、インターネット業界や法学者から反発の声も上がっている。
京都大学教授(憲法学)で、一般財団法人情報法制研究所(JILIS)の研究主幹も務める曽我部真裕さんは以前、BuzzFeed Newsの取材にこう述べていた。
「ブロッキングのアイデア自体は古いもの。コミックの売り上げに影響している可能性も背景にはあるが、唐突感がある」とし、今回のブロッキングは「本来のプロセスを経ていない」とした。
憲法・法的な観点から、大きくわけて2つの問題があるとした。
まずは憲法21条で定められている「通信の秘密」。
ブロッキングは、ユーザーのアクセス先のサイトをプロバイダが逐一確認し、それがブロッキング対象のサイトである場合にアクセスを遮断するものであるので、通信の秘密の「知得」「窃用」の構成要件に該当するとされる。
国内唯一のブロッキング実施である児童ポルノは、人格権侵害の重大性などを考慮して、通信の秘密などを慎重に検討した上で、緊急避難が成立された。
しかし、今回の海賊版サイト問題では、法的に緊急避難の要件を満たすとは考えられず、通信の秘密の例外にできる正当な理由はないと話す。
また、違法な情報流通に対しては違法な行為自体に対応すべきで、政府がサイトブロッキングを要請する行為は、事実上の検閲とし、「表現の自由、知る権利」の侵害と曽我部さんは指摘していた。
出版社、漫画家協会の反応は
出版社、漫画家協会の反応はどうか。
講談社は13日に緊急声明を発表し、ISP(サービスプロバイダー)や流通事業者などの協力を仰いだ。今後も海賊版サイトに対しては刑事告訴や民事での提訴など臨むとしている。
集英社も同日、今回のブロッキングは「海賊版対策において大きな前進と考えます」との声明を出した。
日本漫画家協会の理事長を務めるちばてつやさんは、個人名義で以下の声明を発表している。「心強さを感じた」とする一方、「表現の自由」や「知る権利」について危惧もしている。
知的財産戦略本部が「海賊版サイト」の対策として緊急避難的に接続を遮断することが出来る、とする判断をされたと聞き、まずは日本が国をあげて「マンガの危機」に真剣に向き合ってくれていることに、とても心強さを感じました。
しかし僕たちは表現者として常に大切にしてきた「表現の自由」や「知る権利」において、今回の「ブロッキング」という手段が諸刃の剣になりかねない、と危惧してもいます。
だからなお一層、そんな手段すら検討せざるを得ない「海賊版サイト」の存在には、強い憤りを感じるのです。
才能あふれる若い漫画家の皆さんが今、本当に苦しめられています。
その酷い現実を見るほどに、守るべき自由の理念と、綺麗事では済まないかもしれない醜い現実のはざまで、身を引き裂かれるような思いを味わっているところです。
問題は解決されないまま
いらすとや
先述した問題が解決されないまま、23日に発表されたNTTグループのブロッキング実施について。
ISPの業界団体・日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)をはじめ、業界団体は今後、反対する声明を発表するものとみられる。
なお、今回ブロッキングを実施するNTTコミュニケーションズ、NTTドコモ、NTTぷららの3社はJAIPAの正会員である。