日本で唯一、VHSビデオデッキを生産していた船井電機(大阪府)。7月、ついに生産終了をした。
▲一時代を築いたVHSビデオデッキ(写真は1983年生産の同社初号機)
Takumi Harimaya / BuzzFeed
生産終了の経緯、いまの胸中は。BuzzFeed Newsは、船井電機を訪ねた。
▲デジタルメディア事業部部長 佐治成起さん
Takumi Harimaya / BuzzFeed
やむを得ない、生産終了
同社は、1983年からVHSビデオデッキの製造・販売を開始。2000年代にはピークで月産180万台を達成。年間1500万台以上を販売した。
しかし、DVDやBlu-rayの登場とともに、市場は縮小。昨年は75万台にとどまった。
「撤退するメーカーさんが増えていき、核となる部品を製造するメーカーさんも減少。部品の調達ができなくなったのが、生産終了の大きな要因です」(佐治さん)
VHSは、DVDやBlu-rayに比べ、生産の難易度が高い。「海外メーカーが真似をして、作れる製品ではない」という。
「使う人が少なくなっても、使ってくれている人は必ずいる」
他メーカーが相次いで撤退していくなかでも、同社が生産を続けてきた理由だ。
終了の決断、そのとき。
販売開始から、生産終了まで33年。終了決断のとき、社員の反応はどうだったのか。
「どちらかというと、若い社員より、ベテラン社員の方が悲しんでいました。実際に使っていた世代ですし、VHSに携わりたくて入社した社員もいますからね」
「中国の工場では、33年間、ずっとVHSを作り続けてくれた人もいます。感慨深く、正直、寂しいですね」
▲1985年に発売されたテレビデオ
Takumi Harimaya / BuzzFeed
佐治さんは、当時の思い出を語る。
「ピーク時は、いろんなことにトライしてきました。なかには、思い通りに進まないモデルもあって……。そんなときは、工場のメンバーだけでなく、弊社役員も工場の生産ラインに一緒に入って、夜通し作業しましたね。大変でしたが、『社員全員でVHSを作っている』ことが感じられて、いい思い出です」
生産終了の報道が出てから、ネット上では「やめないでくれ!!」「お世話になりました……」と悲しみの声が上がっている。
しかし、生産するための部品自体がなくなってしまうので、復活は不可能だ。
受け継がれる、VHSの遺伝子
一時代を築き、姿を消すVHS。しかし、その技術は、いまに受け継がれている。
「VHSに欠かせない回転制御の技術は、DVDやBlu-rayの再生機に生かされています。それだけでなく、プリンターの紙を送り出す部分にも、VHSで培ってきた技術が宿っています。VHSの遺伝子は、確実に現代に役立っているんですよ」
Takumi Harimaya / BuzzFeed
最後に。
「報道が出て以来、ファンの皆様から予想以上の反響をいただき、VHSが愛されていたことを実感しています。同時に『もっと続けられなかったのか』とも考えました。しかし、残念ながら前述のとおり生産できないのが現実です」
「長らくVHSを愛していただき、本当にありがとうございました。いまは、申し訳ない気持ちとともに感謝でいっぱいです」